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程よく上司をディスタンス

今朝、新聞に第一生命保険「サラリーマン川柳」2020年入選句が載っていました。(※1)

 「 コロナ禍が 程よく上司を ディスタンス 」 

なるほど秀作です。

これはコロナ禍におけるコミュニケーションのあり方はもちろん、部下の仕事のプロセスに上司がどう関わるかについての問いかけでもあります。

今までどれくらい「密」だったのでしょうか。また、これは心理的距離、物理的距離のどちらでしょうか。

今まで上司は、部下の数も増え育成に手がまわらず、業績を上げるにはさらなる努力を部下に投入してもらいたい、もっと部下関わらなきゃいけない、と思っていた人が多いはずです。

「1On1」など、私とあなたの秘密の場で心理的距離を縮めながら、指導したい上司に対して熱苦しいと感じていた部下もいたかもしれません。

毎月の部会、毎週のグループ会、毎朝のチームミーティング・・・直接、顔を合わせる場が今までたくさんありました。オンライン化されても物理的な時間、回数はあまり減っていません。それどころか、部下の仕事のプロセスが見えないとのマネジャーの不満も多く聞かれます。

手を変え品を変え「密」になろうとする上司に対して、部下も自分の仕事に集中する時間がどんどんなくなります。しかも、対面オンラインでなく、スラックなどITツールでバンバンやって来ますので対応だけで疲れます。また、職場が家庭に突然侵入してきたので境界が曖昧になっています。当然、距離をとって欲しいとの意見は出てくるでしょう。

他方、「密」を回避する別の動きも最近あります。

それは「疎」を放置で実現するというのではありません。目標を達成するのはあなたの責任だから、仕事のプロセスは上司は関知しませんよ、さっさとやってね的な、人ベースから仕事ベースの組織運営を明確にしたアプローチをする人材コンサルが最近押し出しを強くしています。

これは「結果による管理を自律的に」という、いわゆる本来のMBOに近いのメッセージなのですが、同時に、責任と権限、使える資源を部下に明確にしてあげましょうね、と強く指し示すことがミソになっています。つまり、事前に職務、責任割りをしっかりすることで、その後の遂行プロセスは上司は感知しません、部下は自由にやっていいですよという「疎」の実現です。

他方、このしくみは上司である幹部や経営に意識改革を迫ります。つまり、日々のオペレーションの中で仕事を思いつく度に部下に仕事をお願いするのではなく、事前にもっと考えておけよ、そうでないと、あなたが本来役割としている仕事もできないでしょ、というよりそれができていいんじゃない?という気づきを与えます。

これは、部下じゃなくてあなた自身は本来何をやるの?に引き戻す。つまり、人起点ではなく仕事起点の組織運営に引き戻すことを狙っています。なので一部のベンチャー、中小企業の経営者にこのアプローチはウケるのでしょう。なぜなら、そもそも人と人の間に、たくさんの抜けがあってやるべき仕事がボロボロ落ちている組織では、まずは職務の網羅性を高めることが効果的です。

そもそもこれは組織論の基本である組織のヨコの調整・分業です。これができていないと1On1で追加的指示を行うことになり、メンバーがオーバーワークで疲弊するだけです。また、組織のタテの関係である権限や責任についても事前に明確化することで、タテの調整コストを低減させることができます。

どうせ、限られた資源で荒っぽい組織運営をしなければならないのだから「割り切り=重点化」を行い、その中で責任を負わせることは合理的な考え方と言えるでしょう。

ただ、これをいわゆる成熟した大手企業がやるとどうなるでしょうか。コンセプトの導入、適応には精密な議論が必要でしょう。

さて、「密」or「疎」?

組織のメンバーである部下の立場において完全に「疎」はないでしょう。

事前に結果を目標に定めて任せる「事前・密」か、プロセスや計画をコントロールして成果を高める「プロセス・密」かの違いはありますが、密はどこかで必要になります。

でも、これは2分法では決められません。それを決めるであろう立場・主体者も、会社単位(=人事部の制度的決定)なのかチーム単位(マネジャーの現実的決定)なのかも決めにくいところです。マネジメントのシステムを決定は、何を目的にするのかによって基準が異なることろがやっかいなところです。

コロナ禍もかれこれ1年。

テレワークが常態化しつつある現在、せっかくだからたまにはゆっくりさせてよ、では済まなくなって来ました。そろそろ組織運営のそのものについて、企業内で本質的な議論が必要でしょう。

その際、50歳以上の人事経験者であればご理解いただけると思いますが、どうぞ「ジョブ型雇用」などカタカナを振りかざした素人議論でお茶を濁さないでください(※2)。心よりお祈りします。

※1 日本経済新聞(21年1月28日朝刊)より

※2 現在日本の人事では「ジョブ型雇用」という怪しい言説がまかり通っています。これは米国の職務給の一面を見繕ったものですが、米国職務給の成立前提条件と日本のそれは大きく異なります。なのでコンセプトの適応には精密なの議論が必要なはずですが、全くそれがなされておりません。これは、前職先輩でもある海老原嗣生さんがメディアでジョブ型雇用について連日文句を発信しています。ご興味あれば調べて見てください。

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