以下、浅井論文*1)から引用
稟議制度とは、「業務の執行について経営上重要な事項が,組織体の下部(下層から中間の管理層)によって立案され,関係者を経て上部機関によって決裁される制度であり,文書(稟議書,起案書)の回覧によって各関係者の承認,決裁が行われる制度」とされる。
他方、近代組織論においては,意思決定すべき問題の領域を細分化し,それぞれの領域の専門家に限られた範囲の意思決定問題を割り当てることが、組織における意思決定の階層的な分業である(Simon1997)。
しかし、日本の「稟議制度」は、意思決定の範囲ではなく,意思決定の 4 つの段階,①課題の設定,②選択肢の探索,③選択肢の選択,④選択結果の再検討(Simon 1977)を階層間で分業する構造となっている。 そこで、浅井は2つの仮説を立てている。
仮説1 「稟議制度」は参加による上方への情報伝達手段であるとともに、意思決定プロセスの分業構造により、階層が低い職員に現有する職務能力を超える経験を与える OJT の役割を果たしているという稟議制度の人材育成の機能を果たしている。
仮説2 「稟議制度」による人材育成は、長期雇用や職務権限の規定、評価制度といった人事諸制度との整合性により一つのシステムとして機能している。
*1)浅井 希和子(2017)「従業員の組織の意思決定への参加がマネジメント人材の育成に与える影響 : 稟議制度の機能についての一考察 (統一論題 グローバル化と労使関係)」 日本労務学会全国大会研究報告集 / 日本労務学会 編 47:2017 p.222-229
昭和の頃、日本型意思決定制度のネガティブな特徴として「稟議制度」は大いに議論されていたようだ。でも最近は話題になっていなかった。面白い仮説だ。しかし、稟議制度は現存しているのだろうか?変容してるとしたらそれは大変興味深い。
「人材育成と能力開発の現状と課題に関する調査」結果が発表された。「従業員100名未満の企業において、この1年間でOFF-JT研修を実施した企業は、全体の3分の1程度である」とのこと。
環境変化にスピーディーに対応するには、内部の資源に頼らず、外部の資源を活用することが得策である。内部資源が不足しがちな中小企業において、その手段の一つであるOFF-JTの利用率がこの程度でよいのだろうか。
なぜだろう。OFF-JTの有効性が低いからだろうか?OFF-JTの内容がだめなのかもしれない。しかし、調査結果を見ると「OFF-JTにそれなりに効果がある」と企業は認めている。であるならば、実施する予算や時間の捻出が難しいのか・・・スッキリしない。
現下の経営環境では、未来を切り開く情報や技術を内部の努力だけで獲得することは難しいのではないだろうか。
もちろん、外部資源を活用し内部に導入する方法は、OFF-JTや自己啓発などに限ることなく、M&Aや業務委託などの手段もある。周辺業務ならそのような手段もあるが、一番大切な自社のコア部分に関してはそうもいかないのではないか。OJTにあっても「指導する人がいない」とのことで実施に課題があるとの結果が出ている。これでは内部を磨き上げるための方策に手詰まってしまう。
このような調査結果の傾向は、この30年は変わっていないように思う。
そもそもOJT,OFF-JT、自己啓発というくくり方自体が、実態に合っていないのではないだろうか。現実を見定める視点の再考が求められる。